妄想夜話 -或いは此れも幸せな日常-

日々の暇に思いついたお話。或いは杉田さんとピンキー達とのあれこれ。
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はっぴーはっぴー・ばれんたいん

 その子はいつも頑張り屋で。
 時に頑張りすぎてしまうほどの、頑張り屋で。

 だから僕は、いつもハラハラさせられる。


     ▼


 それは、仕事中のこと。

「中嶋」

 ちょっとした仕事を頼むつもりで、僕はその名前を呼んだ。
 すると、自分のデスクのノートパソコンから顔を上げて、3つ下の後輩の中嶋真由子が、ゆっくりとこちらを見た。

「はい? 何ですか、名村先輩?」
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」

 そう、言いかけて。

「……ちょっと待て、中嶋」
「はい?」
「お前、もしかして具合悪いのか?」

 それは、ちょっとした違和感。
 何となく表情に翳りがあるような気がして、僕は思わずそう訊いた。

「えええっ!? そんなことないですよっ!?」

 すると中嶋は、思い切り大げさに両手をぶんぶんと振る。

「や、ちょっと眠いぐらいで! 別にそんな、具合悪いだなんてそんな、何とも無いんですよ? 本当ですよ?」
「じゃあ何でそんな必死なんだよ」
「だって大丈夫ですから何ともありませんから全然余裕ですからっ」

 ぶんぶんぶんっ、と、中嶋が顔を激しく左右に振る。
 そんな必死な様子が、何となく可笑しくて。

「……くくっ」
「あ、もしかして今笑いましたか?」
「いや別に何でもないよ。―――はいこれ、コピー頼んでも良いか?」
「了解しましたっ」

 びしっと敬礼してみせる、そんな中嶋が、また可笑しくて。
 今度は思わず、声を出して笑ってしまった。


     ▽


「名村先輩」

 退社しようとしたところを呼び止められて、僕はそちらを振り向いた。

「中嶋?」
「はいっ」

 僕が名前を呼ぶと、中嶋は嬉しそうに微笑む。

「何か用か?」
「はい。えっと……これを、先輩に渡そうかなと思って」

 そう言うと、中嶋は鞄の中から包みを取り出した。
 可愛らしくラッピングされた箱。それは紛れも無く、

「……チョコレート?」
「はい。今日はバレンタインデーですからね?」

 何が嬉しいのか、中嶋がまた笑い声を上げる。

「喜んで下さいよ名村先輩。それは何と、私の手作りなんですからね?」
「へぇ。中嶋、お菓子とかよく作るの?」
「いえ、全然ですけど」

 何故か自慢げに言い切る中嶋。思わず脱力する僕。

「おかげで時間が掛かっちゃいまして、結局昨日の夜は殆ど眠れませんでしたよ。そのせいか、今日は一日中眠くて眠くて……」
「……それでお前、今日の仕事中ずっと具合悪そうだったのか?」
「ええ、だから大丈夫だって言ったんじゃないですか。ただちょっと眠いだけですからって、言いましたよね?」
「ああ、確かにそう言ってたな。くそ、心配して損したじゃないか」

 溜め息を吐く。けれど中嶋は、むしろ嬉しそうに目を輝かせた。

「心配してくれてたんですか、先輩?」
「……まぁ一応な」
「良かったー。頑張った甲斐がありました」

 そう言って、中嶋が笑う。
 どうしてこの子は、そんなに頑張れるんだろうか。

「なぁ、中嶋」
「はい?」
「何だってそんな頑張るんだ?」

 僕がそう訊くと、中嶋は目を細めて悪戯っぽく微笑んで。

「だって」

 楽しそうに。

「女の子にとって、バレンタインデーは戦いですからっ」

 嬉しそうにまた笑って、僕に向かってこう言ったんだ。




「だから―――覚悟しててくださいね、先輩っ!」
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