妄想夜話 -或いは此れも幸せな日常-

日々の暇に思いついたお話。或いは杉田さんとピンキー達とのあれこれ。
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タイトル未定
 どうしてこんな状況になったのかと、自問自答してみて。
 すぐにそれが意味が無いことだと気づいて、真由は溜め息を吐いた。

「どうして、溜め息なんて吐いてるの?」

 その目前では、1人の少女が、真由に向かってそんなことを訊く。その言葉に、真由はがっくりと肩を落として見せた。

「美加。あんた、今の状況分かってる?」
「……???」

 不思議そうに疑問符を並べる少女――美加を見て、真由は思わず頭を抱えたくなった。この、長年付き合ってきた年下の幼馴染は、基本的に天然だ。いつもは仕方ないと笑って許してしまうところだが、今回ばかりはそうもいかない。
 改めて、真由は今の状況を整理することにした。まずは、どうしてこうなったのか……。

「真由ちゃん、どうして難しい顔してるの?」

 思わず、脱力。そして次に、

「どうしてあんたは1人でそんなにほのぼのしてるのよっ! こんな状況でっ!」

 怒鳴る。狭い個室の中、真由の怒鳴り声が反響して、美加の身体がびくっと震えた。

 要するに。
 トイレの個室、何故か2人で、閉じ込められてしまっているのだった。



「ああもう、いい加減泣き止んでよ……」

 真由はごめんごめんと呟きながら、美加の身体を包み込むように抱いて、あやすように頭を撫でた。美加は真由のハンカチを目元に当てながら、

「もう……怒って……ない?」

 ぐしゅぐしゅと鼻を啜りながら、伏せ目がちに訊いてくる。
 よく考えれば、6歳も年下の美加に怒鳴り散らすなんて、大人げなかったのだ。こういう時に落ち着かないといけないのは、大人である自分だというのに。
 今年、美加の通う高校の図書館司書として採用されて、まだ6ヶ月。或いは、何も問題を起こすまいと躍起になっていて、だからこそ安易に怒鳴ってしまったのかも知れないとも思う。そう考えると、真由は少しだけ、自分自身を情けなく思ってしまうのだった。

「ごめん」

 もう一度、今度はきゅっと、美加の身体を抱き締める。

「……うん」

 美加は泣き笑いのような表情で、真由の肩口に顔を埋める。

 放課後の旧校舎。2階の女子トイレ。開かない個室の扉。過ぎてゆく時間。

 最初こそ、待っていれば誰か来るんじゃないかと高を括っていたのだが、今や殆ど使われていないらしい旧校舎のトイレに来る人間など居らず。声を上げれば誰かが来てくれるとか、そういうことを期待するのは無理のようだった。外界から完全にシャットアウトされたようなトイレの個室は、今や密室も同然だ。

(こういう時、犯人はどうやって、自分一人だけ脱出できて逃げ果せるようなトリックを考え付くのかしらね)

 真由は、仕事の合間によく読む推理小説の、密室トリックを思い出そうとしてみた。勿論それは意味のある行為では無かったし、そもそも推理小説の犯人は密室殺人を企てることはあっても、密室から脱出する手段を考えることなど無いはずだった。最初から密室でない状況で殺人を犯し、然る後に密室というあたかも犯行が不可能であるかのような状況を作り上げるのが、密室トリックの常だから。

(それとも……別の入り口があったりとか?)

 例えば、それほど高くない天井。数枚のパネルで構成された天井、そのパネルが1枚だけ外れて、天井裏へ脱出できるのだ。そして天井裏には、秘密の迷宮が隠されていたり。

(……バカバカしい)

 天井のすぐ上には3階がある。天井裏のスペースなんて無きに等しいだろうし、そもそも天井の高さまで這い上がることなどできそうも無い。
 脱出手段として一番可能性が高いのは、トイレのドアを蹴破ることだろう。ドアノブをガチャガチャと回しても、思いっきり押しても引いてもドアは開かなかったけれど、思いっきりドアを蹴破れば、もしかしたら出られるかも知れない。

 と、そこまで真由が考えたところで。

「ねぇ、真由ちゃん」

 美加が、泣き腫らした顔を上げて、ぽつりと呟いた。

「私、そろそろ帰りたい」
「……あんたねぇ。それが出来るなら、最初っから苦労はしてないわよ」

 疲れ切った表情で、真由が呻く。すると美加は不思議そうな表情で、真由の顔を見上げた。視線を受けて、真由は少し戸惑ったように、身体を半歩ほど横にずらす。
 美加はその横をすり抜けるようにして、ドアの前に立った。ノブに手を掛けて、よっと力を入れる。

 ―――ドアは、呆気なく開いた。

「えええええええええええっ!?」

 思わず絶叫する、真由。

「あんたっ、何でっ……」

 すると美加は不思議そうに、首を傾げて。

「もしかして真由ちゃん、ここから出たかったの?」

 美加の言葉に、うんうんと頷く。

「なら、言ってくれれば良かったのに」

 このドア、立て付けが悪いから、開けるときコツが要るんだよ。そう言って微笑むと、じゃーねと言い残して、美加はさっさと立ち去ってしまった。
 そして、残された真由と言えば。

「何なのよそれ……」

 立ち尽くしたまま、呆然と呻く。窓から差し込む夕陽が、やたらと目に痛かった。
 ふと、腕時計に目を遣る。時間は、10数分しか過ぎていなかった。つまりこれは、

「私一人だけ、パニックになってたってこと……?」

 思わず頭を抱えて、その場に座り込んでしまいそうになりながら。
 取り敢えず真由は、仕事をしばらくの間サボってしまっていたことに対する言い訳を、必死になって考えていたのだった。
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