妄想夜話 -或いは此れも幸せな日常-

日々の暇に思いついたお話。或いは杉田さんとピンキー達とのあれこれ。
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風邪をひいたら(1) <Kanon・風邪ひきショートSS 美汐編>

 風邪をひいて寝込んでいると、普段見えないものが見えてくるような気がする。例えば、いつも自分が、どんなふうにどれほど愛されているのか、とか。

 ……いつも自分が、どんなふうにどれほど愛しているのか、とか。


     ◇       ◇       ◇


 閉じていた目を薄っすらと開く。目の前にあるのは、よく見知った後輩の女の子の、心配そうな表情。

「……大丈夫ですか、相沢さん?」
「ああ。結構楽になってきたような気がするよ」
「本当ですか? ……少し、失礼します」

 その女の子―――天野美汐が、俺の額にそっと手をのせた。ひんやりとした天野の手の感覚に、俺は思わず目を瞑ると、熱でまだ少しぼんやりする頭を、洗い立ての枕カバーに埋めた。
 こちら側に身を乗り出した天野の髪がふわっと広がって、微かに良い香りがする。

 女の子の、シャンプーの香り。

「―――本当ですね。熱は随分下がったと思います。それでも十分高いですけど……」

 ……なんとなくむらむらした。

「なぁ、天野」
「はい。なんでしょうか、相沢さん?」

 微かに首を傾げる天野に向かって、

「―――キス、してもいいか?」

 そう、言葉を投げかけた。すると、

「嫌です」

 いつもの抑揚の無い声で、天野はあっさりと拒否する。
 俺はちょっと子供っぽく口を尖らせてみせた。

「もう少しぐらい考えてくれてもいいんじゃないか?」
「いくら考えたところで結論は変わりませんから」
「がんっ!?」

 相変わらず、はっきりと言う奴だなと思う。

「そもそも、どうして私が相沢さんと接吻をしなくてはいけないんですか」
「『接吻』なんて単語、すごく久し振りに聞いたぞ。相変わらずおばさん臭いな、天野は」
「ひどいですね、物腰が上品だと言ってください」

 言いながら、天野は凍りつくような笑みを浮かべた。
 目はちっとも笑っていないあたりがちょっと怖い。いや、かなり怖い。

「―――俺、病人だし、もう少し優しくしてくれても……」
「私は十分に優しくしているつもりなんですけれど?」

 そう言いながら、天野が困ったように笑う。

 正直な所、天野に看病を頼める義理はなかったように思う。それでも美汐は、秋子さんも名雪も不在で途方に暮れていた俺のところにわざわざ来てくれて、こんな風に甲斐甲斐しく看病してくれている。

「……そうだな、天野は優しいよ。感謝してる」
「……どういたしまして」

 少しだけ顔を赤らめて、そっぽを向く天野。照れているのだろうか、そんな仕草は、十分に歳相応な女の子に見える。

「愛してるぞ、美汐」

 ベッドから上体を起こしながら、戯れにそんなことを言ってみた。

「そんな……」

 口をぱくぱくと動かしながら、天野は耳まで朱に染まる。それを見て、俺は思わず声を上げて笑ってしまった。からかわれているらしいと察した天野が、手近のクッションで俺のことをばしばしと叩く。

 ―――優しい光景。

「全くもう相沢さんはっ。今度そんな冗談を言ったら、2階の窓から吊るしますからねっ」

 真っ赤な顔で、そんな不穏なことを言う天野。本気で怒られたら堪らないので(天野ならやりかねないような気がした)、両手を挙げて降参のポーズをしてみせながら、もう一度枕に頭を埋めた。

 ふぅ、と軽く溜め息を吐くと、天野は額に貼るタイプの解熱用のジェルシートを、俺の額にぺたんと貼り付けた。
 熱で熱くなった額に広がる冷たい感触が、何だかとても気持ちいい。

 何だかんだといいながら、それでも甲斐甲斐しく看護してくれる天野。そんな様子をベッドの中からぼーっと眺めるのも、まあそれはそれで悪くないような気もする。

 と言うか、こんなに可愛い後輩が看病してくれている、この状況。
 もしかして、これはやっぱりチャンスなのかもしれない。

「―――っと。これで大丈夫ですね。あとは、栄養のあるものを食べて、きちんと睡眠をとって下さいね」

 そう言うと、天野はやわらかく微笑んだ。
 その微笑みで、辛うじて繋がっていた何かが切れたような、そんな気がした。

「あとは、しっかりと汗をかけば、すぐに良くなると……」
「なあ、美汐」

 俺は出来るだけ真面目な顔つきを装って、天野の名前を呼んだ。

「な……何でしょうか、相沢さん?」

 不意に名前を呼ばれた天野は、少しだけ照れた風に顔を赤らめて、こちらを見返してくる。

「頼みが……あるんだけどさ。聞いてくれるか?」
「……ええと、私に出来ることでしたら構いませんが?」

 恥ずかしそうに視線を逸らせながら、天野が軽く肯いた。その様子を見て、俺の中で完全にスイッチが入る。

「美汐」

 がしっと、天野の細い両肩を掴んだ。そして、天野の目をしっかりと見据えて、ゆっくりと……。

「添い寝してくれ」
「嫌です」

 ―――多分必死の形相をしていただろう俺の顔を、冷静に見据えて。
 もしかして、なんて幻想を抱いていた俺ににっこりと微笑みながら、天野は即答したのだった……。




Kanon 天野美汐SS
| SS(二次創作) | 13:35 | comments(2) | trackbacks(0) | ↑PAGE TOP
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コメント
 ありがとうございます。
 最初はラジオの「いいんですよ、私は」をイメージしていたので、もっと甘々でらぶらぶなお話にするつもりだったのですが、気が付いたらこんなお話になってましたよ?(笑)

 一応シリーズものを予定しています。
 Kanon以外でも書けたらいいなぁ。
| 杉田(管理人) | 2005/09/16 5:15 AM |
これはとてもよい美汐さんですね。
シリーズものという事は他キャラの話もあるのでしょうか。楽しみです。
| 銅おりは | 2005/09/15 6:38 PM |
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